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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち
「精神的打撃による心臓発作―」
 小紅は呟いた。
「それで、準平さんは?」
 当然、この場にいるべきはずの人物が見当たらない。番頭は沈痛な面持ちで首を振った。
「こちらに帰る直前まではご一緒だったのですが、そこから先は―」
 言い淀んだところを見れば、姿を消してしまったのだろう。自分のために多額の慰謝料まで払い、大罪を不問にしてくれた父親が倒れたのに、彼はいなくなった。
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