この作品は18歳未満閲覧禁止です
一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第28章 第二部・第六話【春咲く花】 春咲く花
「母上、ですから、私は」
瑞容院が振り向いた。美しい若やいだ面から先刻のやわらかな微笑は消えている。冷たい―栄佐が幼い頃からよく知る母の貌であった。何故か子どもの頃から、こんな冷たい表情で見つめられると、栄佐は萎縮してしまうのだ。
―ええい、良い歳をした大の男が情けない。
栄佐は今も大叔父笈馬の屋敷で自分を待っているであろう小紅を思った。彼女のためにも強くならなければと自分を励ます。