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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち
「準平さん! お父さまがお呼びよ」
思わず叫んだが、武平は小さく首を振った。
「良いんだ。あいつは誰かに言われて素直に動くようにヤツじゃない。好きなようにさせておきなさい」
武平の手が差しのべられた。小紅はすかさずその手をしっかりと握りしめる。
「小紅、私の小紅。最後にもう一度だけ言わせておくれ」
その一言は唇の動きだけ、口許に耳を寄せて初めて聞き取れるほどのかすかな囁きだった。