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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち
 小紅の脳裏にあの冬の初めに庭で見た残菊がありありと浮かぶ。すべてが灰色に沈み込んだ初冬の景色の中でそこだけ鮮やかに色づいていた小さな空間。季節の流れに逆らわず、さりとて、流されるだけでもなく、自分の花を精一杯咲かせていた白い可憐な菊たちの姿に、小紅は叔父の生き様を見たのだ。
 小紅も菊になりたい。秋の季節を大胆に彩り、大輪の花を咲かせる派手やかな菊も良いが、それよりは季節の終わった後、ひっそりと一輪だけ人知れず花開く―そんな生き方が良い。
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