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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち
 だが、厚かましい男は小紅のまなざしなど眼に入らないかのように平然と部屋に入り込み、後ろ手に戸を閉めた。
「何だよ、許婚者につれない態度だな」
 まだ父親の四十九日も済まないのに、よくもへらへらと笑っていられるものだ。
「私はあなたと婚約した憶えはありません」
「そうなのか? 親父は確かに俺たちの前で言ったはずだがな。お前は俺の女房になると」
「あれは口約束にすぎませんから」
「では、お前は亡くなった親父の遺言に背くつもりなのか?」
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