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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち
 居室を出た廊下の少し先に、お琴が立っていた。
「お嬢さま―」
「お琴さん、お願い。私をここから逃がして」
 お琴はすべてを知っているようであった。主人の行いを止めることは奉公人にはできない。お琴は哀しげな顔で小紅を見つめた。
「お願い!」
 両手を合わせて頼むと、お琴は意を決したたように頷いた。 
「お行きなさいませ。そして、もう二度と、こに戻ってきてはなりませんよ」
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