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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち
 二人はひと刹那の間、見つめ合い、無言で別れを惜しんだ。
「さあ、早く行って下さい」
 その声に背中を押されるように小紅は駆け出した。
 外に出ると、また雪が降り始めていた。不思議なことに、低く垂れ込めた雲間から一条の光が差している。ふと見上げれば、十六夜の月が蒼褪めてその姿を見せていた。
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