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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第5章 【残り菊~小紅と碧天~】 いちばん幸せな日
これが江戸でも指折りの〝大商人(おおあきんど)〟と呼ばれているお人なのだと思うと、十五歳の小紅は何やら、まともに顔を見てはいけない人のように思える。伏し目がちに端座していたら、存外に優しい声音で話しかけられた。
―お前さんが小紅さんかい。
温かな声に誘われるように顔を上げた先には、整った面立ちの男がいた。その物腰もいでたちも大店の主人にふさわしい貫禄を備えているが、到底、五十に手が届くようには見えず、若い頃からの美男ぶりは変わっていないのではと思われる。
―お前さんが小紅さんかい。
温かな声に誘われるように顔を上げた先には、整った面立ちの男がいた。その物腰もいでたちも大店の主人にふさわしい貫禄を備えているが、到底、五十に手が届くようには見えず、若い頃からの美男ぶりは変わっていないのではと思われる。