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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第5章 【残り菊~小紅と碧天~】 いちばん幸せな日
「さんざん手間をかけさせやがってよう」
 準平がツと手を引くと、頬に当たった匕首が皮膚の上すれすれをなぞる。白い頬に小指の爪先ほどの赤い線が浮かび上がった。
「これくらいにしておいてやるよ。傷のついた女を抱く趣味はねえからな」
 準平は小紅を軽々と抱え上げた。愕いたことに、すぐ手前に駕籠が止まっている。駕籠かきの男二人のいでたちや背格好にもかすかに見憶えがあった。
 では、先刻の駕籠は準平が予め用意していたものだった? 
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