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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第6章 【残り菊~小紅と碧天~】 運命が動き出す瞬間
鏡に映っているのは吉原の〝朝霧楼〟の振袖新造、環(たまき)であった。華やかな打ち掛けや豪奢な帯、簪に吉原に生きる女の気概と哀しみをそこはかとなく滲ませて―。
「良いか、舞台に上がったら、客の方は見るな。ひたすら自分は吉原の振新、環だと言い聞かせるんだ。念仏のお題目のように唱えてろ。その間に全部終わる」
控え室を出て通路をまたしばらく歩いた。客のどよめきが聞こえてきた時、いよいよだと思った。
「良いか、舞台に上がったら、客の方は見るな。ひたすら自分は吉原の振新、環だと言い聞かせるんだ。念仏のお題目のように唱えてろ。その間に全部終わる」
控え室を出て通路をまたしばらく歩いた。客のどよめきが聞こえてきた時、いよいよだと思った。