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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第6章 【残り菊~小紅と碧天~】 運命が動き出す瞬間
「梅光(ばいこう)さん、碧天が来ました」
 その他大勢の一人なのだろう、遊女のなりをした女形が言う。
「遅いぞ、碧天」
 先頭に立つひときわ華やかな美貌の花魁が振り返った。この艶姿に野太い男の声というのは、どうにも頂けないが―、それはこの際、考えないようにする。
 最初に口を開いた女形が言う。
「碧天、どうしたんだ。いつもなら誰よりも張り切って真っ先に支度を終えるお前が遅れるだなんて」
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