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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第6章 【残り菊~小紅と碧天~】 運命が動き出す瞬間
栄佐はそこで立ち止まり、空を仰いだ。
三月初旬の空はどこまでも涯(はて)なく蒼く続いている。遠くに絵筆でさっとひと描きしたような細い雲がたなびいている。
今日は朝から上天気で昼を回った今は、気温もかなり上がっていた。
「それから、お前に言わずに勝手をして申し訳ねえが、難波屋には真実(ほんとう)のことを話したぜ」
「真実のこと?」
「難波屋の先代、つまりお前の叔父さんのことさ」