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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第7章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】
 男は小紅が差し出した晴れ着を手に取り、丁寧に検分している。先刻までの穏やかな雰囲気は失せ、眼は鋭い光を放っていた。江戸でも屈指の大店といわれる呉服太物問屋〝京屋〟の主人だけはある。
 小紅は十六歳、江戸の町外れの貧乏長屋に一人暮らし、仕立物の内職をしながら日々の糧を得ている。小紅自身も元は大店の一人娘で気随気儘なお嬢さま暮らしだったのだけれど、一年近く前、父が若い女と手に手を取って夜逃げしてしまい、店を畳まざるを得なくなった。
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