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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第7章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】
 そのひと言に小紅は言葉を失った。思いもかけない言葉なので、咄嗟にどう反応して良いか判らなかったからである。
 が、江戸でも随一と呼ばれる大店の主人相手である。さして深い意味もなく言った言葉なのだと思うことにして、あまり深く意図を考えない方が良いと咄嗟に判断した。
「京屋さん、ここは恋愛にご利益があることで有名ですけど、実は技芸にもご利益があるそうですよ」
 殊更明るい声音で告げると、市兵衛が少し愕いたように眼を見開いた。
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