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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第7章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】
 栄佐が抜き身の鋭い刃なら、市兵衛はゆったりと吹き渡る春風のようで、まさに対照的な二人といえた。
「それでは、私はこれで」
 一介のお針子に丁寧に頭を下げる姿も好ましく人柄が窺えた。小紅もまた頭を下げ、人通りの多い往来を歩み去る市兵衛を見送った。市兵衛の上背のある後ろ姿が人混みに消えるのを見届けてから、小紅は彼とは逆方向に足早に歩き出した。
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