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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い
「栄佐さん、いないの?」
 どこかに出かけていて留守なのかと思った矢先、狭い部屋の一角に人影を認めて、小紅はキャッと声を上げた。まるで薄い闇が凝(こご)って人の形を取って現れたかのように見えた。
「何なのよ、もう。人が何度も呼んでるのに、返事もしないで。いきなりそんなところにいたら、びっくりするでしょ」
 小紅は頬を膨らませ、ぶつくさ言いながら行灯に火を入れた。途端に室内が明るさを取り戻し、小紅はホッとする。
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