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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い
持参した夕飯を甲斐甲斐しくちゃぶ台に並べていた小紅が振り返った。
「今、何て?」
「小紅、俺ァはもし今度、立て役に選ばれなかったら、役者止めるぜ」
投げ捨てるような言い方はいつもの栄佐らしくない。
「何を言ってるの? 芝居は栄佐さんの一生の仕事でしょう。そんなに簡単に諦めちゃって良いの?」
「お前は他人事だから、気安く言えるんだ」
「そんな―。私、何もそんなつもりじゃ」