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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い
 促され、小紅は素直に緋毛氈を敷いた長椅子に座った。市兵衛よりは少し距離を置いた隣である。
 ほどなく店の老婆がゆっくりと近づいてきた。
「私はお茶を下さい」
 市兵衛はもの柔らかな口調で言い、小紅を見た。
「小紅さんはどうする?」
「では、私もお茶をお願いします」
「何か食べないの?」
「いいえ、大丈夫です」
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