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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い
それは意図した言葉ではなく、むしろ自然に零れ落ちたものだったけれど、市兵衛は心外だと言わんばかりに眉を寄せた。
「私から言わせれば、あなたにそんな切なげな表情(かお)をさせること自体が許せない。大方、その男は小紅さんが自分のためにわざわざ願掛けに通っていることすらも知らないのではない? 良い歳をした大の男が女にそこまで心配をかけて、知らん顔をしているなんて甘えている」
市兵衛が憤慨めいているのに少し愕き、小紅は力なく笑った。
「私が勝手にしていることですから」
「私から言わせれば、あなたにそんな切なげな表情(かお)をさせること自体が許せない。大方、その男は小紅さんが自分のためにわざわざ願掛けに通っていることすらも知らないのではない? 良い歳をした大の男が女にそこまで心配をかけて、知らん顔をしているなんて甘えている」
市兵衛が憤慨めいているのに少し愕き、小紅は力なく笑った。
「私が勝手にしていることですから」