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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い
 時間はこのときから少し前に遡る。
 栄佐は随明寺の絵馬堂前で神妙な顔になって手を合わせていた。
「まったくガキの頃から一度も神頼みなんかしたことのねえ俺が願掛けとはなァ。マ、俺の柄じゃねえことだけは確かだ」
 祈り終わった後、栄佐は一人ぼやきながら絵馬堂に背を向けた。少し歩きかけ、また立ち止まりチラリと後ろを振り返る。
 彼の眼には格子戸に隙間なく掛けられた無数の絵馬が映じていた。
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