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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い
栄佐は小さく首を振った。長い物想いから自分を解き放ち、眼を開く。今、眼前にあるのは穏やかな初秋の陽を浴びて佇む三重ノ塔の偉容だった。あの雪の日から十五年を経た今でもあの頃と変わらず、朱塗りの塔が陽光の中にすっくと建っている。
それは限りなく厳粛な優美さを漂わせている。その優美さとはまた厳しさにも相通ずるものであった。厳しさを滲ませながら、同時に親しみやすい優しさをも併せ持っていて、彼を慈しんでくれた乳母を思い出させた。
それは限りなく厳粛な優美さを漂わせている。その優美さとはまた厳しさにも相通ずるものであった。厳しさを滲ませながら、同時に親しみやすい優しさをも併せ持っていて、彼を慈しんでくれた乳母を思い出させた。