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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第9章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 嫉妬
―何だとォ。
 多吉が鼻息も荒く立ち上がった時、両手を勢いよく机についたものだから、物凄い音がした。その縄暖簾は構えも小さく、机が三つ四つと腰掛け代わりの樽があるだけの小体な店だが、それでも客はそこそこ入っていた。
 大きな物音に店中の客の視線が集まり、栄佐は冷や汗をかいた。
―まあ、まあ、多吉っつぁん、そうカッカしなさんなって。
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