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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第9章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 嫉妬
「私ったら、大仰に愕いちまって。失礼ですよね」
 たかだか髪にそっと触れた程度で、十六にもなる娘が年端のゆかない幼女のように怯えるのはおかしいし、不自然すぎる。
 が、市兵衛は訝しげな面持ちながらも、それ以上、追及はしなかった。
「おっかさんの話は気にしないで、小紅さん」
 市兵衛は小紅から視線を逸らし、あらぬ方を向いた。
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