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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第10章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 心の嵐
「あぁ、あ―、栄さん、そこ、そこが良いんだよぅ」
その声は聞き憶えのあるもので、深川の岡場所で〝緋扇〟という見世を営む女将美桜(みお)のものだ。果たして栄佐の住まいの戸口には〝鍼灸致します〟と看板が風に揺れている。
初めて美桜の艶めかしい声を聞いた日には、小紅もその声が情事の最中の喘ぎ声だと勘違いしてしまったほどだ。
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