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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第12章 第一部・第三話 【月戀桜~つきこいざくら~】 十六夜の月
 十六夜の月

 その夜のことである。小紅は真夜中にふと目覚めた。咽の渇きを憶えて三和土(たたき)に降り、水瓶から柄杓で掬って水を飲んだ。冷たい水が喉元を通り過ぎてゆく感覚が何とも心地よく、生まれ変わったようだ。
 二杯目を呑もうと柄杓を瓶に入れたその時、隣の腰高が音もなく開く気配がした。続いて、ひそやかな足音。
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