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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第12章 第一部・第三話 【月戀桜~つきこいざくら~】 十六夜の月
 道理で明るいはずだった。その煌々とした月明かりが照らし出す夜道を、栄佐は寸分の躊躇いもなく歩いてゆく。小紅が見たのは木戸を抜けて彼の姿が江戸の闇に溶けて見えなくなるところまでだった。
 まさか宇之助のときのように後を付けるわけにもゆかず、小紅はそこからは引き返して家に戻った。
 恥ずかしい話だけれど、真っ先に浮かんだのは逢い引きではないか、つまり栄佐に誰か好きな女ができて、その女にひそかに逢いにいくのではないかという考えだった。
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