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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第17章                         

「ははは。さすがにそれはないですよ。だって、私もうすぐ23にな――」

「ん? どうした?」

急に言葉が途切れたヴィヴィに、きょとんとした表情のスタイリストが尋ねてくる。

「ううん……、何でもないです」

「そお~~?」

少し首を傾げたその人は、そのままメイク直しを続ける。

「………………」

メイクの邪魔にならない程度に視線を落とし、左の掌をそっと開いたヴィヴィ。

恐らく袖の中に入り込んでいたそれに、灰色の瞳が渋みを増す。

初々しい蕾が綻び、鮮やかに花開き、やがて散り際を察し潔く土に還る、一片の桜のそれ。


『Men grow cold as girls grow old
 ―女が老いると男共は いずれ冷たくなるわ

 And we all lose our charms in the end
 ―そして私たちは皆、色香を失ってしまうの』


最近、エキシビで使ったこの曲が、頭の中でループすることが増えた。


花が散るために 咲き誇るように

実が朽ち果てるために 実るように

満開の桜に 日常の退廃を見つけ

芽吹く新芽に 自身の衰えを覚える

私はこの先 どんどん老いていく

そう

老いは皆に平等に訪れ 誰も逃れることを赦されぬ 自然の摂理――


成長を、老いを恐れるようになったのは、いつからか。

素敵に年を重ねる周りの人々を見て、いずれ自分もそうなるのだと、憧れていた時期もあったのに。

一緒に時を刻み互いを慈しむ筈だった男を手放し、後に残ったのは己の「若さという武器」に執着するようになった自分。

「………………」

(思考がひたすら醜いし……。なんか、すっごく年取ったな、私……)

まだ22歳、されど22歳だ。

フィギュア界ではベテランの中のベテラン。

昨今では「五輪シーズンで引退か」と囁かれているのは、自身の耳にも届いている。

本人も口にしていない「集大成」という言葉が、周りで勝手に独り歩きしている。


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