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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第17章                         

(いや……。絶対、新婚さんだと思われてる、これ……)

開け放たれた窓越しの朝日に輝く、猫足の白いバスタブ。

底に沈んだものを拾い上げたヴィヴィは細い鼻先にくっつけ、深く深くその匂いを吸い込んだ。

エキゾチックで甘すぎない、オリエンタルな芳香。

インドネシアでは古くから新婚初夜のベッドに敷かれるイランイランを指先でちょんと弾くと、細長い黄緑色の花弁が特徴的な花は静かに沈んでいった。

「こうやってるとさ、なんか、船に乗ってる気分」

「うん?」

「ほら、海の上に建ってるし。遮るものが何も無いから、まるで船首に置かれたお風呂に入ってるみたい?」

両腕を伸ばし目前に広がる太平洋を愛でる妹を、ウッドテラスのロッキングチェアで寛いでいた兄が、ガラス越しに振り替える。

「なるほど。じゃあ、タイタニックごっこでもしておくか?」

「……するわけないでしょ……」

愛らしい顔を顰めたヴィヴィは、片手を伸ばすと「ん!」と何かを強請る。

察した匠海がポンと小気味良い音を立てて抜栓し、キンキンに冷えたそれをサーブしてくれた。

「ふぃいい~~。余は満足じゃ~~♡」

フルートグラスを空にして朝シャンを満喫するヴィヴィに「お侍か」と呆れた兄は、それでも二杯目を注いでくれる。

「なんでも良いのじゃ~~」

心地良い潮風、耳触りの良い波の音色、突き抜けんばかりの青い空と、境界が判らなくなる程に蒼い海。

そして旨い酒とくれば、もう完璧である。

「満足じゃ~~」

背の半ばまである金糸が白くささやかな胸を隠し、厚めの前髪から覗く瞳は黒真珠の如く朝日に煌めいている――

その様はまるで、泳ぎ疲れた人魚が岩場で休んで居るかの如く可憐なのに。

桜貝色の瑞々しい唇から零れるそれは、ひたすらおっさん臭を放っていた。

「ふっ それで――?」

「ん~~?」

二杯目もカパッと豪快に空けてしまった妹から、兄がグラスを摘み取り。

そして何故か、大理石の床に跪き従順な下僕を演じてみせる。

「ヴィクトリア嬢――。そろそろ日も高くなってまいりましたので、本日のご予定をお選び頂けますか?」

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