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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第17章                         

冴え渡っていた青空は徐々に紺へと色を変え、これ以上無く白く輝いていた太陽は刻々と温かみのある色へと移ろう。

「こんなに、ゆっくり……」

ふと零れた妹の声に、兄は掛けていたサングラスを頭上へずらしながら「ん?」と相槌を返す。

「うん……。こんなにゆっくり、べったり、何日も二人だけで過ごせたの、久しぶりだな。と思って」

太陽と海面が触れ合った瞬間、それまで静かに凪いでいた黒い海面に、スーッと一筋の路が現れた。

薄い唇から漏れた「ほぅ」という感嘆の吐息に、匠海は目の前の金髪を愛おしそうに指で梳く。

何日も二人だけで過ごすなんて、元執事の凌辱から逃れるべく匠海に拉致され、湖畔のコテージで二泊した以来だ。

忘却の彼方に葬り去りたいけれど出来ぬ過去に、サングラスの奥の瞳が僅かに狭まる。

「そうだな」

「とっても、贅沢」

互いに日本と英国に何もかも置いて、脱ぎ去って、忘れて。

兄妹の瞳には、本当に自分達の姿しか映さなかった。

「来年も、一緒に来ような」

「え?」

「南国じゃなくても、今度は二人でどこに行くか決めよう」

秘め事を楽しむ匠海の声に、静かな波の音が重なる。

太陽が彼方に沈むにつれ、天国への架け橋の如き海の路は、遠く儚く縮んでしまう。

「……私ってさ……」

「うん?」

「私って小さな頃からお兄ちゃんに、ずっと “こうやって” 甘えていたじゃない?」

急に話の飛んだヴィヴィに、頭上から小さな苦笑が降ってくる。

「ふ。そうだなぁ」

目をつむれば、いつだって思い出せれる。

兄の作り出す囲いの中、長いだけが取り柄のひょろっとした両脚を折り畳み、心も身体も庇護されていた自分。

「まだね、小さな頃は良かったの……。私の身体が成長しても、お兄ちゃんも成長していたから。いつまでも、その大きな身体で包み込んで貰えるって」

「甘えん坊だったもんな、おちびヴィヴィは」

昔を懐かしむ匠海の声には、全く負の感情は無いけれど。

幼い頃、多忙な両親に全てを受け止めて貰えぬ寂しさを免罪符に、自分はことさら兄に懸想していた。

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