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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第18章

そして当時の自分は “代償” として己に出来ることは「義姉の求める金額の慰謝料を支払う事」ぐらいしかないと考え、その準備もしていた。

なのに、瞳子はそれすら求めて来なかった。

あの時の自分は、慰謝料を払えさえすれば許されるとでも思っていたのか?

兄との関係を解消出来ない “代わりの償い” を、たかが金で補えると本気で思っていたのか――?

度重なる不義理を経て、己の善悪や価値観は、どれほど歪んでしまったのだろう。

醜い、あまりにも狡くて、汚らしい。

そして、そんな本当の自分を、目の前の大切な男にすら見せられない弱さに辟易する。

「瞳子さん……、気付いてる。私達の関係」

「………………」

妹の暴露に兄は驚きもせず、それどころか どうでも良さそうだった。

そんな態度に、二人の上辺だけの関係がありありと見えて、ヴィヴィはさらに空しくなる。

(私はあの時、何の為に身を引いたの……? これは、何の為の、誰の為の結婚だったの……?)

否、問いの答えを求めても無意味で、過去は過去でしかない。

もうどうしたって時は戻せないし、互いの過ちも無かった事には出来ない。


私達は、もうお終いなのだ――


猫背気味だった姿勢を正すと、ヴィヴィは一歩下がった。

妹の拒絶とも取れる距離に、匠海の広い肩が微かに震えて見えた。

「もう、金輪際、二度と会わない」

確固たる意志を示すも、相手はそれを是とはせず。

「……いやだ……」

「聞いて、お兄ちゃん」

「……いやだっ」

駄々っ子の様な兄の返しに、ヴィヴィは自分達の五歳差という年齢が入れ替わったかに錯覚した。

匠海の持つ弱さは、兄と関係を持ち始めてから何度も目にした。

それが自分だけに見せてくれる甘えの内は良かった。

私だけに心を許してくれているのだ、本当の自分を見せてくれているのだと、幸せしかなかった。

けれど、

自分の狡さがここまで兄を追い詰めてしまったのだと気付いてからは、目を逸らしたくなった。

見たくなかった。

認めたくなかった。

相手がいなくなれば心身ともにボロボロになり、縋る事すら厭わなくなった、愛する人の姿なんて。

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