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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第19章       

思わずバイセクシャルか?と軽く尋ねてしまったが、さらりと否定したフィリップはきっと、LGBTを当然の事として受け入れているのだろう。

女装化のダリルとも、最初から馴染んでいた。

「それで――?」

「え?」

「その元恋人は今、離婚調停中だろう? 離婚が成立したら、よりを戻す気は?」

「無い。そんなの、絶対に無いっ」

周りと自分を偽り続ける矛盾と向き合えたヴィヴィに、過去の過ちを繰り返す気はさらさら無かった。

相手を睨み付けるように断言したヴィヴィに、フィリップはさも当然そうに頷いた。

「そうだろうね。だから俺との交際を始めた。もう過ちを繰り返さないために」

彫りの深い眼窩から向けられる蒼い瞳が、まるでヴィヴィの決意の深さを推し量る様に、硬く煌めいていた。

「………………」

(最初から、全部お見通しだったってわけ……)

自分が今までフィギュアで滑ってきた演目の意味も、馬鹿な行いも、フィリップにとっては「叶う筈も無い恋」に意地汚く足掻いている様にしか映らなかっただろう。

なんだか一瞬にして、彼の前で丸裸にされた様な気がした。

取り繕おうが虚勢を張ろうが、フィリップの前にあっては、ただの愚かな独り相撲でしかない。

椅子の背もたれに顎を乗せたヴィヴィは微かに嘆息すると、何故か少し言い辛そうに続ける。

「あのさ……。嫌だったら正直に言って?」

「何だい?」

「フィリップ、今、私を抱ける?」

「え?」

「私とセックス出来る?」

「……――っ!? で、ででででっ 出来ますっ!」

「なんでドモるの、なんで敬語なの」

今まで散々冷静だったくせに、いきなり動揺を見せた相手に、ヴィヴィの眉間が若干寄る。

「なんだか、俺、今、童貞の気分」

絵画「ヴィーナスの誕生」の如く、胸と股間を両手で覆った相手に、ヴィヴィは呆れを隠さず零した。

「なんだそれ」

数々の浮名を流してきた王子様が童貞とか、天地がひっくり返っても無いわ。

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