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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .

そして、その状況に己で気付いていなくて。

気付けていなくて。

週に1日しかない休日すらもリンクに行こうとするヴィヴィを、クリスが「問答無用!」とばかりに早朝から連れ出してくれた。

パンティング(川下り)、湖畔のサイクリング、カレッジの仲間達とのBBQ。

ロンドンの祖父母を訪ねたり、テニスやボルダリングを楽しんだり。

現彼氏のフィリップとは、大手を振って外を闊歩する訳にはいかなかったけれど、博士課程の最終学年で超多忙の筈の彼も、時間を見つけては屋敷にやって来ていた。

双子の兄の手厚いフォローを、かい摘んで三田に説明していたヴィヴィだったが。

しかし、その思考は別のところにあった。

(ていうか……。その最中最中に、クリスがめっちゃ見てくるんだけどね……)


――――


まだ双子が英国に渡る前――松濤で家族5人、水入らずで暮らしていた頃。

クリスが “18歳の誕生日プレゼント” として両親に家族旅行を強請ってくれたおかげで、篠宮家の五人と英国の両家親族達とで中東のドバイを旅した事があった。

旅の最終日。

当時付き合っていた彼女に失恋したクリスを慰めようと一日中デートをしたヴィヴィは、滞在先のホテルに戻っても名残惜し気な双子の兄と、レストランにお邪魔しピアノを借りた。

そのシーズンに双子がFSで用いていた、映画『シャネル&ストラヴィンスキー』で使われた、印象的な曲をピアノで連弾するために。

映画では、まだ不倫関係に至っていないシャネルとストラヴィンスキーが、彼の手解きでその曲を連弾する。

ストラヴィンスキー作曲 

「5本の指で―8つのとても易しい小品」より No.5 Moderato

5年前に演奏した双子のそれは、音遊びを楽しむ二匹の子犬の様に愛らしいものだった。

けれど今、

23歳の大人の男女となった双子が奏でた連弾は、酷く危うい均衡の上にあった。

誘ったのはヴィヴィ――

きっかけは、屋敷の防音室でストラヴィンスキーの譜面を目にし、昔懐かしい記憶が甦ったからだった。

ピアノ&ヴァイオリンの講師だった白砂と、ストラヴィンスキーの様々な曲に取り組んだこと。

自分と同年の男の講師に苛烈な嫉妬を燃やし、有無を言わさず辞めさせようとした、もう一人の兄のこと。

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