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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .

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「――ちゃん。……ヴィヴィちゃん?」

いつの間にか過去をなぞっていたヴィヴィを、現実に引き戻してくれたのは三田だった。

その呼び掛けに はっと我に返ったヴィヴィが、何かを誤魔化すように指で髪を梳る。

「……って事で、もう、クリス様サマです。ほんと、足を向けては寝れない。あはは」

そう取って付けたように苦笑したヴィヴィは、

「ノド乾きません? お茶、入れ直してきますね」

とやや強引に話題を切り、席を立った。



淹れ直した紅茶を手ずからカップに注ぐヴィヴィに、三田は話をFSに戻してくれた。

今シーズンのはじめ、ヴィヴィは各社のインタビューに対し、

「 “過去の弱い自分” と決別できるよう、このシーズンを通してFSと向き合っていく」

と応えていた。

その今シーズンも、五輪と世界選手権を残すばかり。

だから三田ディレクターが次に寄越した質問は、当然のものだった。

「 “四年前の自分” は、弱かった――?」

「………………」

過去の弱い自分 = 四年前の五輪で大敗した自分

表の自分を知る人々なら皆、そう思い描くだろう。

カップに紅茶を注ぎ終えたヴィヴィが、白い湯気のくゆるそれを三田の前に置きながら頷く。

「弱かった、ですね。色んな意味で――」

己の茶器を取り上げたヴィヴィは、執事・朝比奈が客の為にブレンドした茶葉の種類を推し量るように、目蓋を瞑りながら香りを吸い込む。

弱かった。

そして、今も弱い。

ふとした瞬間に思い出す過去に、昇華し切ったはずの想いが燻り始め、その事に途轍もない虚無感と、己の芯の部分から消す事が叶わぬ男の存在を思い知らされる。

それはそうだろう。

この23年間、誰よりも近くで言葉を交わし、深いところで交わり、心を通じ合わせてきた家族、だったのだから。

「その亡霊とは、お別れできそう?」

FSのテーマに沿わせてきた三田に、ヴィヴィは困ったように眉根を寄せながら苦笑する。

「う~~~ん。亡霊かぁ……」

元夫の亡霊が嫉妬し、新たな恋人との恋路を邪魔してくる。

そして元妻は、かつては愛した亡霊を火祭りで除霊して、新たな一歩を歩み始める。

そんな『恋は魔術師』のストーリーに共感して、今シーズンに取り組むことを決めたのは確かだ。

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