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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第22章     

2月15日の夜半、ミラノを発ったヴィヴィがロンドン・ヒースロー空港に降り立ったのは22時過ぎ。

それでも空港には報道陣や情報通のファンや押し寄せており、空港職員から混乱を避ける為にバックヤードからの帰途を勧められたヴィヴィは、その通りに従った。

ミラノ・コルティナ五輪。

その大会9日目に、三大会連続・個人金メダルを獲得した双子の兄の快挙に、世界各国は熱狂し、歓喜に酔いしれ。

今から たった数時間前、それらをリンクサイドでつぶさに見届けたヴィヴィとて、同じ状況だった。

タクシーの後部座席で「はふぅ~~っ」と熱の籠った息を吐き出したヴィヴィに、隣に坐する執事・朝比奈が頬を緩める。

「大変お疲れ様でした、ヴィクトリア様」

「ふふふ。朝比奈こそ、夜遅くまでお疲れ様❤ 迎えに来てくれてありがとうね、やっぱり朝比奈の顔を見ると、ホッとする」

そんな可愛らしい謝辞をくれる主に、執事は銀縁メガネの奥の瞳をこれでもかと細めて頷いた。

「クリス様のご様子は、いかがでしたか?」

「うん、いつも通り、淡々としてた(笑) たぶん明日の朝までテレビに出ずっぱりで、寝むれないだろうね~~」

FSを滑り終えた直後、四年間の全てを出し切れて感無量といった様子だったクリスは、珍しく拳を突き上げていたが。

しかしそれも、氷から降りた途端には「すん(-_-)」という効果音が相応しいほどの、無表情・無感情の仮面を被ってしまうので、そのギャップたるや凄まじく。

今夜 各国・各局のテレビクルー達は、クリスの “通常運転のテンションの低さ” に、きっと振り回されることであろう。

大会1~4日目まで行われていたフィギュア団体戦にて、銀メダルを獲得した日本の選手達も受けた取材合戦。

勿論その一員として、女子選手 SP1位としてポイント獲得に大いに貢献したヴィヴィは、クスクスと思い出し笑いをしながら、カバンからタブレットを取り出した。

「お嬢様、屋敷に到着するまでの間、少しでも休まれては――?」

明日の早朝から滑り込む為に、是が非でも今日中に本拠地・オックスフォードに戻りたかったヴィヴィ。

だが、その主の疲労度合いは執事には手に取るように解かるらしい。

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