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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   



 どうして――

 どうして、こんな想いをしてまで、

 生きてなきゃ、いけないんだろ……。



 屋敷に帰り着くまで、

 少なくとも自分は、

 辛い現実の中にも、未来への希望を見出していた。

 なのに。

 それを、あの男に、

 呆気無く、打ち砕かれてしまった――。

 周りが自殺を止める気持ちは、理解出来る。

 自分だって、己の命を絶とうとする人間がいれば、なりふり構わず止めるだろう。

 けれど、

 阻止された後に、

 命を繋ぎ止められた後に、

 自殺を図った人間が、どれほどやるせ無い気持ちでいて、

 どれほど「死ねなかった」と苦しむかだなんて、

 そんなものは、

 その “当事者” にしか解らない――。
 


 シャツワンピを握り締めたまま、俯いて立ち尽くし。

 それから、どの位の刻が経ったのか。

 僅かな空気の揺らぎを感じ、ゆっくりと顔を上げた、その視線の先。

 こちらを向いて立っている男に、

 小さな顔がぐしゃりと、これ以上無く歪む。

 5m程先――。

 否、

 白一色のそこでは距離感が掴めず、

 もしかしたら、もっと遠かったのかも知れないし、

 もっと近かったのかも知れない。

 端正な顔に柔らかな微笑みを湛えているのは、

 頬の輪郭や、醸し出す雰囲気に、少し幼さが残る、

 恐らく、大学生の頃の匠海。

 まだ、自分が “ヴィヴィ” としか呼ばれる事の無かった、

 兄からしたら “穢れを知らぬ子供” でしかなかった自分を、

 無償の愛で包み込んでくれていた――昔の兄の姿。

「……おにぃ……ちゃん……」

 夢の中でも、叫び過ぎて酷使した咽喉から零れる声は、かすれていて。

「……消え、ないの……」

 胸を握っていない方の腕が、

 自分を庇う様に貧相な身体に巻き付けられる。

「 “あの人” の感触が……消えないの……。

 肌に……、口の中に……、

 匂いが、味が、感触が残って……っっ」
 
 誰にも吐露出来ない、心の内の苦しみを、

 在りし日の兄へと、歯に衣着せぬ言葉でぶつけていた。

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