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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

 ダイニングの奥にあるアイランドキッチンへ行ってしまった兄から、自分へと視線を戻せば。

 その時になって、己がルームウェア姿であることに気付いた。

 最近 気に入って着ている半袖半ズボンのそれは、白とグレーの太ボーダーのオールインワンで。

 着心地優先で、色気なんて皆無の代物だった。

 一方、キッチンでテキパキ料理を進める匠海はといえば、

 紺のVネックのサマーニットに、ベージュの細身カーゴパンツ姿。

 身体にフィットするその柔らか素材で、胸板の厚さと肩幅が強調されて、

 27歳男盛りの色香は、直視でもしようものなら、くらくらしてしまいそうだ。

「俺、今、ヴィヴィにチラ見されてる」

 米を炒めながら、そうからかってくる兄に、

「し……してないっ」

 図星だったヴィヴィは、真っ赤な顔のまま訂正する。

「可愛い、ヴィヴィ」

「かっ!? か……可愛くは、ない……」

 「何てこと言うんだ」と心の中で詰りながらも、リビングで手持無沙汰に立っていたヴィヴィは何故か、

 キッチンで調理をする兄の方へと、見えない引力で引き寄せられて行く。

 そしてどうしても目が追ってしまう、匠海の長く男性らしい指には、何もはめられてはいなくて。

「………………」

「ほら、ヴィヴィにそっくりなトマト、洗ってくれる?」

 鍋にブイヨンを注ぐ匠海は、視線だけでボウルに入ったトマトを示してきて。

「だ、だから! こんなに赤くないもんっ」

 むきになって言い返す妹を、「はいはい」と軽くあやしながら、調理を進めていく兄。

 常と同じく、豪快にトマトを洗い始めたヴィヴィ。

 なんだか、調子が狂う。

 今日の匠海はまるで、純粋に兄妹として過ごしていた頃の、妹をからかって愉しむ、ちょっと困った兄の姿で。

 しばらくして出来上がったトマトリゾットは、短時間で作ったとは思えないほど、

「美味しい……」

 大きな瞳を丸くしたヴィヴィが、そう素直に感想を漏らせば、

「パルメジャーノ、もっと削るか?」

「レモンもあるぞ?」

と、常に世話を焼こうとする兄に、妹は「大丈夫」と繰り返す。

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