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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第7章      



『俺の “喜び” は、ヴィクトリアと共にあるよ。

 他の誰でもない、お前にある――』



「………………」

 まだ17歳の高校生で。

 匠海の恋人にもなれていなかった頃。



『お兄ちゃんの中の “喜び” を、

 ヴィヴィに、少しでいいから、分けて……?』



 兄の1番になれない現実に疲弊して、自分はそう強請った。

 そんなヴィヴィに、匠海から贈られた言葉――。

 忘れる訳無い。

 忘れられる訳が無い。

 自分にとっては大切な大切な、兄からの言葉。

 五輪のあの日から、

 それらは両刃の剣へと、落ちぶれてしまったとはいえ。 
 
 自分にとっては、掛け替えの無い――

 

 互いに見つめ合ったまま、時だけが過ぎて。

 暖炉で薪が爆ぜる微かな音だけが、その空間を満たしていた。

「もっと “幸せ” になりたくない――?」

 薄い唇から零れた問い。



 やめなさい。



「どうやって?」

 不思議そうに問い返してくる相手に、

「解ってるくせに」

 どうしても詰る言葉を発してしまう。

「解らないよ」

 軽く握られていた手に込められる力。



 ああ、どうして。

 触れ合う肌は暖かなのに、

 心と頭の中は、

 こんなにも冴え冴えと、冷え切っているのだろう。



「私、今、興奮してるの」

 片手で解いたのは、肩に巻いていた黒のストール。



 やめなさい。



「どうして?」

 問いながらも うっとりと自分を見つめる兄の両手首を、

 妹は黒いそれで拘束していく。

「自分達のショーが大成功だったから、達成感?」



 そうね。

 それもあるわ。



「なんだ。俺の色気にクラクラ来ているのかと思った」

 大げさに広い肩を竦めて見せる兄に、

「御冗談を」

 心の奥底を見透かされぬ様、鼻白んでかわす妹。



 やめなさい。

 やめなさい。

 こんなことを続けたって、

 自分も周りも傷つけるだけだって、

 本当は解っているのでしょう――?


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