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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章    

『ふ……。そろそろ “おねむの時間” だろう? おやすみ、ヴィクトリア。ぐっすり眠るんだよ?』

 切れ長の瞳を細め、うっとりと画面の向こうで微笑む兄の笑い皺に、何故か鼓動が跳ねて。

「お、おやすみ……。あと、行ってらっしゃい」

 確かに、オックスフォードはもう23:30――最近のヴィヴィの就寝時間だった。

『くぅっ ヴィクトリアに愛らしく「行ってらっしゃい♡」なんて言われたら、お兄ちゃん興奮してめちゃくちゃ仕事頑張っちゃ――』

「とっとと行って来い(-_-)」

 以前に比べ、輪を掛けて変態に磨きがかかった兄を、無表情で一刀両断してやる。

『あははっ 愛してるよ、ヴィクトリア! じゃあね』

 可笑しそうに声を上げて笑った兄は、やっと画面の向こうから片手を振ってきて。

「はいはい、じゃあね」

 ぞんざいに返したヴィヴィは、細い肩を落としたのだった。



 通話が途切れた途端、小さな顔に浮かんだのは戸惑いの表情。

 電源を落としたiPadを、ベッドサイドのチェストへ置き。

 白いベッドの中、自分自身へと問い掛ける。



 果たして、本当にこれで良かったのだろうか――?



 自分は匠海に幸せになって欲しくて “愛人” になる決意をした。

 けれど、それは “本当に相手を愛している” と言うには程遠い、浅はかな行為。

 “本当に相手を愛している” のならば、自分は何が何でも、匠海を拒否し続けるべきだった。

 愛しい匠海に、不倫という状況に陥らせ、人としての道を外れた行為をさせている。

 例えそれを望んだのが、兄自身だったとしても――

「………………」

 灰色の瞳に浮かぶのは、紛れもない失望の色。

 解かっている。

 ちゃんと、解かっている。

 結局、自分が一番愛しているのは “己自身”。

 何故なら――

 妹と共にあることを「幸せ」という兄。

 妻子が有るにも関わらず、妹を諦めきれない兄。

 そんな匠海に直面し、ヴィヴィはどうしても思ってしまうのだ。

「ああ、やっぱり。お兄ちゃんは、私じゃないと駄目なんだ」

 と――。

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