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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第9章
もう肌寒い秋なのに、ノースリーブなんぞ着ている理由なんて、1つしか無いに決まっているじゃないか。
ひらひらの肩紐が彩る、華奢な片腕が伸び。
その先の細い掌が、張りのある太ももの上へと這わされる。
「わ、私……、愛人でしょ?」
若干うわずった声音で、そう確認するも、
「 “恋人” だけど。で――?」
速攻 匠海に訂正されてしまう。
しかし、次にヴィヴィが発した言葉は、匠海の想像の範疇を超えていたらしかった。
「お……お兄ちゃんを、よっ 欲求不満にさせちゃうのは、駄目な愛人……だか、ら」
「……は……?」
頬を赤らめ、薄い唇の中で もにょもにょ言い募る妹に対し、
それを見下ろす兄はと言えば
「いきなり何を言い出すんだ!?」と言いたげな、怪訝な表情を浮かべていた。
「え、えっと……」
焦った様子で、適切な言葉を探すヴィヴィ。
「…… “良い愛人” は、男を欲求不満にさせないって?」
心の中をそう代弁してくれた兄に、妹は金の頭を こくこくと小刻みに振って同意した。
その途端、「あははっ」と愉快そうに吹き出した匠海は、
金色の髪をくしゃりと撫でると、さも可笑しそうに 顔を覗き込んでくる。
「まったく、お前の “愛人知識” は、一体どこから来てるんだろうな?」
「うぅ……」
(私の愛人の知識……? それはきっと、たまに読む推理小説と、普段の世間話からです……)
胸の中でそう呟きながら、眉尻を下げて唸るヴィヴィに、匠海が確認してくる。
「本当に眠くないんだな?」
「うんっ」
「1回だけだぞ? そうしたら大人しく寝るんだ」
そう念を押してくる匠海の思いやりは、ちゃんとヴィヴィにも届いていた。
だから、
「ん。分かった」
そう、素直に首肯した。
「ほら。おいで、ヴィクトリア?」
自分を思いっきり甘やかしてくれる、匠海の柔らかな誘いに、
「……っ うんっ」
ヴィヴィは嬉々として、受け止めてくれる逞しい胸の中へと飛び込んだ。