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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章      

 リンク中央、白い氷に映える青衣装のヴィヴィが、両膝を片側に揃え座り込んだ。


『運命の女神に傷つき 私は涙する』


 男性バスの豊かな歌声が響く中、

 細い両手を氷上に右往左往させ、何かを探していたヴィヴィ。

 怯える様に天井を仰いだかと思えば、眩しそうに瞳を細め、額の上に片手を翳す。

「女子シングル 最終滑走、篠宮 ヴィクトリア。曲は『カルミナ・ブラーナ』」


『かつての恵みも 今は剥ぎ取られた』


 ゆらりと起き上がったヴィヴィは、脅威から逃れんと必死の形相を浮かべ、

 一気に加速し、後ろ向きの助走へと入った。

「まずは昨日決めた、3回転アクセル――」

 男性バスの歌声に重なる、張りのあるテノール。


『まことに「豊かな緑の黒髪も

 時が至れば禿げ頭」とあるとおり』


 トランペットを筆頭に、軽やかなパッセージ。

 右フリーレッグを蹴り上げ、前向きに踏み切ったのは、

「見事!」

 実況の佐野 実の声に、

「決めました、篠宮!」

 男性アナウンサーの力の籠った声が重なる。

 オーケストラの間奏が響くリンクを、2本目の助走へと入って行く。


『運命の女神の玉座にあった その昔

 私は栄華の花冠を戴いていた』


 肌が透ける青衣装に包まれた腕を、顔前でクロスし。

 肩甲骨を開きながら後ろへと開かれていく両腕は、まるで女神の携える天秤の様に、肩高へと伸ばされていく。

 そうしてスピードに乗り踏み切ったのは、3回転+3回転のコンビネーションジャンプ。

「3回転アクセルからの3回転ループ~~っ!」

「高さ・幅共に、申し分のない連続ジャンプ」

 佐野の機嫌良さそうな解説を、フォローするアナウンサー。

「篠宮にとっては初めて歌詞入りの曲に取り組んだ、今シーズン――」

「意外だよね~。何で今までやらなかったんだろうね?」

 どこまでも軽い佐野の相槌など我関せず。

 リンクの上のスケーターは衆目を一身に集め、演技を続けていく。

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