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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章        

 当初の予定を覆され進退窮まり、手にしていたCDをぎゅっと握り締めたヴィヴィ。



『饗応夫人 ~太宰治・作「饗応夫人」のための音楽~』

 作曲:田村 文夫



 今季のFSにと選んだその曲はタイトル通り、太宰治の「饗応夫人」をモチーフに作曲された吹奏楽曲。

 曲自体はダイナミックで現代音楽の特徴である、

「複雑に変化するリズム」

「難解な主題」

「無調への傾倒と不協和音」

 を色濃く反映しながらも、ドンと胸に迫る「垂直方向の響き」を兼ね備えた迷曲――ならぬ名曲。

 よって振付も困難を極めるだろうが、全幅の信頼を寄せている宮田であれば、きっとやってくれる。

 そう思い依頼し、本人も曲を聴いた直後には「やりたい」と即答してくれていたのに。


『だが、小説を読んで気が変わった。悪いが この曲は振付けられない』


 そう、宮田はその言葉通り、

 原作小説の下記のストーリーのせいで、突っぱねてきたのだ。



 終戦後。

 未帰還の主人の旧友・笹島とばったり会った奥様が、

 以後、笹島と彼が連れてくる人間達に対し、

 ひたすら己と財産を粉にしながら、献身的に尽くすというあらすじ。


 無私の奥様は病弱を憂い、

 怯えながらも “義” の為に笹島に饗応するが、 

 そこには “死” の気配を漂わせつつ、

 底知れぬ優しさを追求する女性の姿が描かれていた。



――――



 尻に引いていた陰茎が、その硬さから いわゆる “ふにゃちん” へ成り下がったのを感じ、

 追憶から引き戻されたヴィヴィは、きょとんと匠海を見下ろした。

(……あ、れ……?)

「……ごめん……」

 片手を顔に押し付け、擦れた声で謝罪を口にする相手に、大きな瞳はぱちぱちと瞬くだけ。

「………………」

(この人……。口撃し続けたら、本当のEDになっちゃうかも……)


――――
※太宰治・作「饗応夫人」全文
http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/291_20176.html
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