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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章        



 私の心は未だ

 この男に 囚われている――



 この口からは嫌味しか出て来ないのに

 頭では卑屈で自虐的な事しか考えられないのに


 目は勝手に兄の姿を追って

 耳は無責任にその声を拾い

 脚は少しでも近くにいたいと動き

 そして

 忌々しい手は 躰は

 この卑怯な男に触れん戯れんと

 目には見えぬ荊(いばら)に絡め捕られ 

 無情にも ずるずると手繰り寄せられる



 頭を抱き寄せていた腕を緩め、乱れた黒髪の隙間から覗く額に、押し付けられる薄い唇。

「……ヴィ……」

 微かに身じろぎした男が零したのは もちろん、執着の対象である妹の名前。

「うん……。ここに、いるよ……」

 耳に吹き込んだ返事に、また穏やかになる寝息。



 うん、ここにいる

 “貴方が欲しい私” は ここにいる

 それはきっと

 匠海が求め続ける限り

 ずっと――



 幼い頃から兄が絶対で

 躰を繋げる関係になり更に輪が掛かった

 “従順で盲目なヴィクトリア”



 再び胸に兄の頭を搔き抱いた妹は、己も目蓋を閉じ。

 共に深い深い眠りへと堕ちていく。



 何一つ貰えないならば

 望むことすら許されぬのならば

 ならば

 たった一時の “戯れ” が欲しい


 兄の躰を一瞬でも欲するならば

 束の間でもその思考と瞳を独占したいのならば

 その代償に

 私は “与えること” を惜しんではならない

 自分は心と躰を相手に差し出さなければならない



 きっと

 ただ、それだけの

 単純なこと――




 ああ、だから

 宮田先生はそれほどまでに


 あの曲を私に振付ける事を拒んだのだ





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