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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章        

 白金台の家に戻るという兄家族を見送り、向かったのは小会議室の一室。

 扉越しに聞こえてくるのは、自分のFSの候補曲である事はすぐに聞き取れた。

 軽くノックをして扉を押し開けば、一仕事終えて缶ビール片手に一杯やっていた宮田が首だけで振り返る。

「先生」

「ん~~?」 

 間延びした返事を寄越す振付師の前まで歩み寄ったヴィヴィは、がばっと90度に腰を折った。

「お願いします。どうしても、どうしても私はあの曲を……『饗応夫人』をやりたいんです」

 そんな必死の懇願をされた相手からは、空の缶をテーブルに置く音しか返って来なくて。

「お願いします。お願いします!」

「ヴィヴィ……、しかし……」

 馬鹿の一つ覚えとは さもありなん。

 同じ言葉を連呼するヴィヴィに、宮田も困り果てた呟きを漏らすだけで。

 身体の両脇、ぐっと握った拳に力を込めながら更に食い下がる。

「先生の……、先生の仰りたい事は、解っているつもりです。そして私も「そうありたい」と思っていて……。でも、そう出来ない自分もいて……っ」


 宮田が新たな候補曲として提案してくれた、

 映画『シャレード』のメインテーマ

 ボサノバの『Wave――波』

 バレエ『ドン・キホーテ』

 そして、『愛の夢』

 どの曲も新たな自分の可能性を引き出し、更なる強みに変えてくれるものばかり。



『どうして自分を傷付ける様なことをする? 

 何故もっと自分を大事にしない? 

 俺は自傷行為の幇助(ほうじょ)なんてする気は無い』



 幼い頃からずっと自分を見守り、高みへと導いてくれた恩師に、そんな辛い言葉を吐かせる事など決してない曲達。

 ゆっくりと面を上げた生徒を、宮田はじっと見つめていた。

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