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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章        

 元に戻した受話器を覆う両手に、ぐっと押し付けた額。

 自分の浅はかな言葉で、きっと兄は再び自信を取り戻す筈。

 そしてまた、あの魅力的な顔で、声で、身体で、

 私を魅了し、悦に浸る。



 これが私の人生なのだろう

 兄に尽くして

 兄を愛して

 兄に与えて

 そして兄が私を裏切る事があれば、また我慢ならなくなった私が離れて

 ほとぼりが冷めた頃に再び、兄が私を捕らえに来る

 その繰り返し


 もうそれで良いんじゃないかという気さえしている

 一生兄しか愛せない欠陥品の自分を

 妻子がありながら追ってくれるのだから

 たとえ何度傷つこうが、打ちのめされようが

 それでも

 私は、きっと――



 電話に伏せていた上体をのっそりと起こせば、視界にキラキラと輝くものが入り。

 左腕を伸ばしそれを掴み上げれば、窓から入る日光を遮られた掌大のそれは、先程までの神々しい眩さとは裏腹に、

 ダイヤモンドの輪郭を模しただけの、ガラスのペーパーウェイトに成り下がる。



 最後通牒を突きつけるのは匠海

 私が年を取り肌に艶が無くなり

 女としての魅力も薄れたとき

 その時になってやっと
 
 私は兄から棄てられ解放される



『ヴィヴィはお兄ちゃんの “人形” だから。ずっと傍にいるし、何をされてもずっとお兄ちゃんが好きよ?』

『でも、飽きたら捨てていいよ。要らなくなったら捨てていいよ。そう……、誰かにあげちゃってもいいよ』



 17歳の秋。

 勘違いとはいえ独り善がりの愛情を押し付け、兄を困らせた言葉達。

 4年経って結局 言った通りになっている――その皮肉にぐっと眉根を寄せたヴィヴィは、

 鬱々した気持ちを紛らわす為、楽器でも触ろうと革張りのチェアから立ち上がった。

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