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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第15章     

 「真面目なところもあったんだな」と意外そうに見つめ返したヴィヴィに対し、

 しかし、ふと何かを思い出した様子の王子は顎に指を添える。

「あ、でも肩くらいは抱いたかな?」

「~~~っっ ちょっとでも貴方を見直した、私の時間を返せぇええええ~~っ!!!」

 目の前のローテーブルに平手を着いて喚いたヴィヴィに、茶器を手に入室してきた朝比奈は「何事か?」と驚きの視線を寄越して来たが。

 「もうこれ以上、この男に付き合ってられんわ!」と席を立ったヴィヴィは、結局大して弾けなかったヴァイオリンを片し始める。

 その背後で能天気な王子と常に穏やかな執事は、談笑を交わしていた。

 おちょくられたとはいえ、ちょっとプリプリし過ぎたかなと反省しながら、弦用のクロスで弦と指板をしっかり拭う。


 それにしても。

 兄の様に慕っている真行寺にだって、全幅の信頼を寄せている朝比奈にだって、

 そして何にも替え難い大切なクリスにだって “セフレ” がいることを言えないでいるのに。

 どうしてフィリップには言えちゃうんだろう――?


 ふと金色の頭に浮かんだ疑問。

 だがそれはすぐに解消した。


(あ~~ “男として全く相手にしてないから” だな。うん、納得!)

 己の理論展開に満足そうに頷きながら、ヴァイオリンケースを閉じたその背後。

 ティーカップを取り上げたフィリップが、さも愉快そうに大きな独り言を呟いていた。

「まあ、いいさ。これからヴィーは、嫌でも俺のことを意識しなければならない状況に陥るからね。ふっはっはっ」

「………………?」

 気になる言葉に背後を振り返るも、飲み干した茶のお代わりを注いで貰っている王子は、こちらの視線には気付いておらず。

 微かに首を傾げたヴィヴィは虫の知らせか、ぶるっと軽く身震いしたのだった。

(「嫌でも俺のことを意識しなければならない状況」? 何企んでんだろ、このエセ王子め……)





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