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真紅の絆
第3章 二話
ふぅ…。
深呼吸をする。

雅影は武術の達人だけに、怒ると気が周りを圧倒する。
宣伸院の前だからあの程度で済んだのだ。緊張を緩めようと庭を歩きまわり、一本の木の前で立ち止まる。

「才蔵」

木の上に呼びかけた。
気配が静かに動いた。

「そっち行ってもいい?」
「そんなに来たいなら構わないぞ」

少し幼くみえる、少年の声。
やたらと偉そうな台詞に苦笑しながら、桃丸は軽やかに木に登った。

木の上の方が、空気がひんやりと気持ちがいい。
また桃丸は深呼吸を繰り返す。目を閉じると、重く沈んだ心が晴れていくような錯覚を覚えた。

――俺が悪いんだよね。俺が生意気だから…。

もっと主君に礼節を尽くさなければならない。甘えてるのだとわかってる。
どうしてうまくやれないんだろう…。もっともっと…ちゃんとした家臣にならないといけないのに。
後できちんと謝ろうと思った。


「桃、殿の機嫌を損ねたのか」

少年――高峯才蔵(たかみね さいぞう)は覆面の忍び装束から目だけを桃丸に向けた。

才蔵は、姫野家に仕える隠密である。
常に覆面の忍び装束を身にまとい、雅影に着かず離れずの場所で待機していることが多い。
街に出る時は虚無僧や傘を深く被った侍に化けて、また顔を隠している。顔を見せるのがよほど嫌らしい。

桃丸と才蔵の付き合いも長い。
雅影が武田家の人質だった頃、山で行き倒れているのを発見したのは桃丸だ。

才蔵の父が伊賀の抜け忍で、追手に深手を負わされて瀕死の状態だった。
それから数日後、才蔵の父はこの世を去ったが、奇跡的に才蔵は助かったのだ。

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