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DIABOLIK LOVERS ~Another~
第1章 餌の少女
月の光が、夜の静寂に満ち満ちている。
青白い月輪の下、整備された庭園に植えられた薔薇は、風も音もなく静まり返った夜の中で、ただその艶やかな姿を晒していた。
赤と白の花々は宵闇に浮かび上がるように、仄かな香りを纏って、ただ存在していた。

「…………」

静けさに包まれたその薔薇園に、少女は立っていた。
胸に両手を当て、月に向かって頭を上げ、目を閉じて――――その姿は、まるで神に祈りを捧げるシスターのように清らかで、同時に僅かな哀愁を帯びている。
ひた向きに祈っているのか、表情に内面の感情は表れておらず、無を宿した顔からは思考を読み取る事はできない。
下品な見方をするならば、まるで口付けを待つ乙女にも見えるだろう。
月は沈黙したままに彼女を照らし、薔薇を照らし、庭園から屋敷に至る隅々までを浄化していく。
まるで少女すら夜の一部であるかのように、無機質で神秘的な静寂に包まれていた。

――――さく

土を踏み締める小さな音に、繊細な静寂は破られた。
祈り続ける少女は、胸に手を当てたまま、目だけをそっと開いた。
音源は、少女の背後。数メートル後方。
背中に感じる視線と気配で、相手が誰か分かった。
それでも、少女は振り返って確認しようとしない。
確認せずとも、どうせ相手から話し掛けてくるに決まっていると確信していた。

「祈ったって、なーんの意味もないよ」

この喋り方、この声。
ああ、やはり。少女の顔が確信を得て、ほんの少し綻ぶ。
そのまま流れるように、後ろを振り向いた。

「勿論知ってるよ、ライト」

んふ、と相手が笑った。
帽子を被り、着崩した制服にお気に入りの上着を合わせたスタイル。
逆巻ライト。どこか冷たい微笑みを浮かべた、端整な顔立ちの青年。

「こんな所で、月に向かって何を祈ってたのかな? 」

さく、さく、と足音を立てて近付いてくる。
少女は自分より背の高い彼を見上げ、同じように優しく微笑んだ。

「祈りじゃないよ」
「じゃあ、考え事かな? 今の君、とーっても色っぽい顔してたからさ」
「っ……顔、見たの?」

彼にはずっと背中を向けていたはずなのに、音もなく前に回って表情を見られていたとは……。自分に自覚のない事を指摘され、少女の顔は紅潮していく。
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