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大地の恋
第3章 プリズム
昼になると珍しく千花ちゃんから俺に声を掛けてくれる。


「板橋さん!約束の……」


「チカちゃん一緒にランチ行かない?」


その言葉を遮るのは林だ。
林は忌々しそうに俺をチラ見して千花ちゃんに笑顔を向けた。


「えっと…今日は約束があって」


「……ふーん」


千花ちゃんの手の大きさの違う二つの弁当を見て面白くなさそうに林は呟いた。


「…チカちゃん、また飲みに行こうな」


「………」


「この間の返事も考えといて」


林は彼女にそう言ってその場を立ち去る。



「昨日林と飲みに行ったんだ?」


「………」


千花ちゃんは何か言いたげに俺を見たが結局何も言わなかった。
それから普段は使われない小さい会議室で弁当を食べようと二人で移動する。


あまり人の立ち入らないそこは独特の香りがしたが妙に落ち着く場所だと思った。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


蓋を開けると彩り豊かな弁当が現れる。



「千花ちゃん…凄いな」


「そうですか?」


「料理好きなの?」


「好きです!…でも今日はいつもより頑張りましたけどね」


はにかんで千花ちゃんが笑う。


「でも食べてみないと味は分かりませんから。どうぞ」


「いただきます」


卵焼きを口に運ぶと絶妙な甘味が広がった。


「…美味い!」


「本当ですか?」


料理は今まで色んな女に作ってもらった。
美味いと思う料理は多かったが、千花ちゃんの弁当にはただ「美味い」とは違う親近感があると思った。


その感覚には覚えがあった。
また食いたいと思えるような…


「…久しぶりに美味い弁当食ったな」


「久しぶり…ですか」


「うん…」



目の前にいるのは千花ちゃんなのに俺は違う人を考える。



「………」


「板橋さん?」


心配そうな千花ちゃんの顔。


「ん?」


「なんか……」


「………」


「何でもないです」


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