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大地の恋
第3章 プリズム
「千花ちゃん」


「………」



「千花ちゃん!」



握られた手を強く握り返すと彼女は初めて我に返る。



「どこ行くんだよ」


「板橋さんちってどこですか?」


「あっち」


うちの曲がり角をすっかり通り越し千花ちゃんは歩き続けた。


「どうした?」


「……さっきの子、この間話してた元カノさんの子なんでしょ?」


「あー…」


「あの人は旦那さんですか?」


「そう」


「………」



もしかして気にしてくれたのだろうか。
未だに繋いだ手を小さい手だと俺は思っていた。





あの時、俺を庇うよう前に出た千花ちゃんの背中は妙に頼もしくて……


思い出したら無性に可笑しくて笑いが込み上げた。


この子は不思議だと思う。
いつもホワホワしてる彼女のどこにあんな逞しさがあるのだろう。



「どうしたんですか?」


「さっきの千花ちゃんがかっこよかったと思って」


「ちょ!馬鹿にしてません?」


「してねーよ、マジで嬉しかった。ありがとな」


「………いえ」


照れ隠しだろうか、いつもよりぶっきらぼうに千花ちゃんが返事する。
それからなんとなく手を繋いだまま実家へ向かった 。


家から鍵を持ってきてエンジンを掛け千花ちゃんを乗せる。




「それじゃ、出発ー!!」


「はいはい」





家から海まで片道で一時間半くらいだろうか。
夏の海は光を受けてキラキラ輝いていた。


「私、海好きなんです!」


波打ち際を目指して歩く千花ちゃんが振り返って俺を見た。


「よく行くの?」


「夏はね。泳げませんけど!」


そしてまた海に向かう千花ちゃんに、確かに泳げなそうだよなとコッソリ笑う。


海風を受けてなびく千花ちゃんのセミロングの髪とスカートの裾、はしゃぐ横顔が綺麗だとふいに思った。




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