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大地の恋
第3章 プリズム
“海が見たい”と言った千花ちゃんは日中はしゃぎ続け、おとなしく海を見つめだしたのは日が暮れ始めた頃だった。


砂浜に二人で座り見渡す限りの水平線を眺める。
俺はこの光景が好きだ。
自然はどこまでも雄大で自分はちっぽけな存在なのだと思わせられる。


でも、そんな小さな自分を確認するとほっとする。
俺は俺のままでいいんじゃないかと無条件に思えるから。


「……水平線の向こうって見えないじゃないですか。地球ってやっぱり丸いんですね」


「………」



良く分からない。
分からないけどそこには千花ちゃんなりの哲学があるのだろう。


波の音だけが聞こえる。
力強く繰り返されるその音には生命力を感じた。


「海って広いですよね…」


「だな」


「海を見てると私ってちっぽけだなって思うんです」


「今、俺も同じこと考えてた」


「本当ですか!?」


千花ちゃんは嬉しそうに驚く。


「…うちの兄弟、みんな自然の名前なんだよな。俺が大地で二番目が空、その下が海で一番下が太陽」


「…素敵ですね、兄弟で繋がりもあって」


「親がどうしてそんな名前つけたのか少し分かる気がするよ…最も俺は親の願いみたいな豊かな大地じゃねーけどな」


「……そんなことないと思いますよ」


海は時間によって顔を変える。
昼間のキラキラした無邪気さは影を潜め、空の色を受けてその姿は妖艶なものに変わる。


「うちは妹が“優花”っていうんですけどね。…母が姉妹だからって私の“花”を妹にも使ってくれたんです」


「千花に優花?可愛いな」


「でしょ?」


小悪魔みたいに千花ちゃんが俺を見る。
自然を前にすると人は素直になる…気がする。


「板橋さん前、私に言ったじゃないですか。“大変だったな”って…覚えてます?」


「覚えてる。あん時も俺って小せーなって思ったから」


「“全然”なんて言ったけどあれ半分嘘です。本当は父が産みの母以外の人を好きになるのがすごく嫌でした」


「………」


「赤い糸なんてないんだなって…だってそういうのって何本も繋がってるもんじゃないでしょ?今の母と父が繋がってるならお母さんとは繋がってなかったんだなって…だったら私と弟たちはどうして生まれたのかなって…」












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